本物の手術と役者の演技…絡み合う音楽とサイレントフィルム、放たれるメッセージ。

「北里大学医学部整形外科学」Webサイトのトップページを飾る、
サイレントのショートフィルムを演出。
音楽も制作しました。
5分程度です。是非ご覧ください。

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背骨全体が湾曲、背中がS字になってグロテスクな外見に悩まされる「脊柱側湾症」。
しかも外見が一番気になる思春期に発症するため、患者の悩みは深刻です。
医療テクノロジーの進歩が、この深刻な症状を改善する大規模な整形手術を可能にしました。

「症状に悩む患者には、治るということを知って欲しい。医療を志す学生には、現場の感動を知って欲しい」

そのような志を受け、私たちスタッフはWebサイト向けにサイレントの医療ドラマを造ることになりました。

 
撮影はのべ二日間で行いました。
初日は手術の撮影がメイン。
シネマトグラファーの大石氏と、VEのノリ君と3人で手術衣へ衣装替え。

手術室には、二種類の人間がいるのをご存じでしょうか。
患部に触るクリーンレベルの高い「きれいな」人たちと、その周囲でうろうろするクリーンレベルの低い「汚い」人たち。
それぞれ着衣の色などで違いがわかるようになっています。
われわれは当然、三脚だのカメラだのを使う「汚い」チーム(笑)。
だから手術器具に近づくと、看護士から激怒されました。

「ダメーっ!離れてーっ!」

そんな逆境にめげず獲物に食らいつくシネマトグラファー・大石英男の姿勢はあっぱれ!
LA仕込みのハンター魂には感服いたします。格好良いショット連発。
撮影素材の中には、「医師のゴーグルに映り込んだ患部」といった秀逸なショットも多数ありましたが
泣く泣くハサミを入れました。

今回の撮影はマイクロフォーサーズ規格のAGーAF105というコンパクトなカメラを使用。
ディスタゴンの単玉シネレンズとは相性がよく、レンズフレアが柔らかい……
しかも狭い手術室で活躍できる機動力もあって、最高のパフォーマンスを発揮しました。
もちろん大石氏の超絶フォーカスワークがなければ、このような結果にはなりえません。
フォローフォーカス、噛み合わせがガタついてたのにね……凄いッス。
いつもありがとうございます>兄貴。

 
側湾症の手術は大手術です。
背骨の曲がりを矯正するために多数のボルトを埋め込み、金属ワイヤで負荷をかける。
ボルトの位置・太さなどを決めるべく「ナビゲーションシステム」が導入されています。
赤外線で器具を撮影し、CG化されていく様。
画像はCADやCGソフトと類似性があり、我々の仕事に通じるものがありました。

 
手術の内容について議論するカンファレンスシーンの撮影で初日は終了。
車椅子にカメラマンが乗って撮影するドリーショット(滑らかな移動撮影)が
北里大学Webの名物となりつつあります。

 
二日目はドラマパートの撮影。
この制服は彼女の私物で、あくまで私服。いわゆる「なんちゃって」。
本物の学校の制服ではなく、ブランドものの制服モドキ。
いまどきの高校生はこういう私服を一着ぐらい持っているそうです。

 
実は彼女、とっても明るい女の子なんですよ(笑)。
本当は何を言っても(何も言わなくても?)ケラケラとよく笑う、いまどきの現役女子高生。
NTTドコモのCMで演じてるキャラ(小栗旬の妹役)なんて、結構コミカルです。
でも今回の役柄をしっかり理解して、シリアスな表情から屈託のない笑顔まで完璧に演じわけてくれました。
母親役の大石直美さん(実はWebサイトのプロデューサー)とは「実の親子みたい」といわれるぐらい仲良し。
二人のコミュニケーションが円滑だったのも撮影成功の一因でした。感謝。

 
失敗すれば下半身不随となる可能性まである大手術。
彼女自身が決断しなければ、病気は克服できないのです。
そういった「不安」や「希望」、「決断」や「信頼」を、手や指の演技で表現したいと考えました。
冒頭からラストまで、ドラマパートにしろ手術シーンにしろ、
指や手の動きを強調していることが伝わるとおもいます。

サイレントフィルムではボディランゲージが大切。
医療行為はほとんどが手を介する作業です。
そういう意味では、視覚化しやすいモチーフであるといえるかもしれません。

冒頭、母に手を引かれて勇気を出す娘は、ラストで母の手を引いて未来へ羽ばたきます。

 
医療スタッフの全面協力の元で撮影は無事終了。
それから編集作業と並行して音楽制作を行いました。

いわゆる劇伴(映画用の音楽)を造る場合、映像の編集が終わってから作曲を行います。
つまりカットの長さはフィックスされています。でなければ音楽を作り込むのは難しい。
ですが今回は、劇伴制作の一般論にこだわらず
音楽の緩急と映像の呼吸を正しく調和させるため
作曲しながら映像の間隔もすべて修正しました。
その甲斐あって、音楽単体でも喜怒哀楽と抑揚を表現できたと思います。

最初のラフな編集が終わった時点では3分半程度だった映像尺が
音楽をつけるために編集をいじり、最終的には5分近くにまで修正されました。
しかし音楽がついたことによって「長く」なったことに気付くスタッフはいませんでした。
音楽の力によって、もともと持っていたドラマ性が強化された証拠だと思います。

ファルセットが印象的なヴォーカル。
ドラマ主題歌などで定評ある弊社社長、リンダが参加してくれました。
彼女はエキストラとして映像の中にも登場しています。
さて、どこに出ているか……わかります?
声以外の演奏にはすべてオーケストラ音源を使い、いわゆる打ち込みで制作しています。
ヘッドフォンで聴いていただけば、コンピューターで作り込んだとは思えない迫力あるフレーズが
お楽しみいただけることと思います。

 
同じ病気で想い悩む患者たちが、このムービーをきっかけに勇気ある一歩を踏み出すことに期待します。
そして、このムービーが医療従事者、あるいは医療を目指す若者たちへのエールになることを切に願います。

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Director & Music : ASSASSIN
Cinematographer : Hideo Oishi
Vocal : LINDA
Assistant : OGAWAY, OKAYU
Web Production : ACUEZ / Mediproduce

2 thoughts on “本物の手術と役者の演技…絡み合う音楽とサイレントフィルム、放たれるメッセージ。

  1. 真正面から、側湾症を取り上げた勇気に感服です
    また、若い女性が患う事の多い難病に真摯に取り上げた事に
    感服しました。
    撮影なさったフイルムを是非見させて頂きたく願う次第です。
    石川利雄

    1. 感想ありがとうございました。記事中のリンク先をクリックしてもらえれば、北里大学医学部整形外科学のホームページ上にて映像本編が観られます。(撮影素材については公開しておりません)病気についてのご質問等は、北里大学の方にお問い合わせください。

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